M&Aに関連する契約書とは?必要書類の基礎的な内容を解説します!

M&A契約実務

M&Aの契約交渉や契約文書の作成は難しいというイメージをお持ちの方は多いと思います。M&Aにおいては、検討のフェーズによって複数の書類を作成する必要があり、それらを希望する内容で実現することは、実際に多くの知識と労力を要します

しかし、現実にM&Aの当事者になる場合には、契約書の作成は絶対に避けられないステップの1つ、かつ、その後の責任関係や事業の命運を左右すると言っても過言ではないとても大事な事項です。

本稿ではM&A取引において必要となる書類(秘密保持契約書、意向表明書、基本合意書、最終契約書)の概要を解説します。

はじめに-M&Aの契約

M&Aの検討は限られた時間の中で行われるため、全ての微細なリスクまでを識別しそれらの対処を行っていくことは現実的ではありません。

そのような状況が多くの取引において生じることになるため、買手と売手との間の利害調整を合理的に行う必要があり、M&Aにおける契約文書は、内容が複雑で多くの法的な知識を必要とします。

M&Aの実施による目的を最大限に達成し、買収後の事業を円滑に行っていくためには契約交渉および契約書のドラフティングが非常に重要な作業となります。

また、契約交渉は最終的な文書化を見据えて行っていくべきであり、相互に協議した内容の丁寧な文書化が必須です。そうでなければ、後々言った言わないの訴訟に発展し、余計な労力を使うことになる可能性もゼロではありません。

買手の立場では、契約書においてどのような権利を要求すべきかを理解すること、また、売手の立場では、自らへの不当な責任転嫁を防ぐためにどのような条件に気を付けるべきかを、整理しながら進めることが成功のカギとなります。

M&Aプロセスと関連文書

M&Aプロセスにおいては、買手と売手の間で作成/合意が必要な書類が複数あります。
一般的なプロセスにおける主な作成書類は以下が挙げられます。

プロセス 作成する書類
M&A戦略策定・ターゲット選定  
候補先へのアプローチ 秘密保持契約書
初期的情報提供  
基本合意/意向表明の提示 基本合意書/意向表明書
デュー・ディリジェンス(DD)  
契約交渉  
譲渡契約締結 最終契約書
クロージング  


秘密保持契約書

初期段階において、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement: NDA)がまず締結されます。
NDAとは、案件が進行していること自体に関する秘密保持を含む、プロセス全般において提供される情報を対象に、第三者への開示を制限する内容の契約書です。

M&Aの検討にあたっては、売手から買手に対して、会社の組織体制・事業・財務等の詳細な情報を提供し、進めていくことになります。特に事業上のノウハウや差別化の要因ともなっている機密事項は売手としてはなるべく開示したくないという思いがある一方、買手としてはそれらの開示を受けないと十分にM&Aの実行可否や買収価格を判断できないという状況があります。

そのため、売手にとっては、タダで情報提供を行った結果、万が一M&Aの話が破談になってしまう場合は、それらの機密情報が競合に流出して大きな損害を被ることになってしまいます。

NDAは、そのような状況を避けるべく、機密情報の目的外使用と情報漏洩防止を目的に締結される契約書です。
NDAに記載される内容としては以下の事項があります。

■ 秘密情報の定義
 - 第三者への開示を制限する情報の範囲を規定
 - 案件の存在自体も秘密情報に含まれ、すでに公になっている内容は除外することが一般的

■ 秘密情報の利用者
 - 原則として買手企業の中の知る必要がある人物に限定されるが、必要に応じて買手の子会社等を含む
 - 買手がアドバイザーを起用する場合は、情報提供範囲に含めるためにアドバイザーが誓約書を差し入れるケースもある

■ 秘密保持契約の有効期間
 - 3~5年間を有効期間とすることが一般的
 - 失効・終了の時点で提供した秘密情報を破棄または返却する規定を定めることもある

■ 損害賠償
 - 秘密保持契約違反に関して情報提供者となる売手が被る損失の賠償に関する規定
 - 情報漏洩の原因(故意・重過失の有無など)、損害の範囲(直接損害・関節損害)、賠償額の上限、免責事項について定める

■ 契約当事者
 - 売手・買手の双方がNDAにサインをして当事者となるケース(相互式)
 - 買手のみがNDAにサインをして売手に提出するケース(差入式)

多くのM&A取引においては、買手と売手が同業であるため、情報漏洩に伴う損害を防止する目的で、このような秘密保持に関する契約を情報提供の事前に締結することになります。

意向表明書/基本合意書

意向表明書と基本合意書は、どちらも具体的なDDや契約交渉のフェーズに入る前に、買手と売手との間で買収意向を確認することを目的とする書類です。

NDAの締結から初期的な情報開示をM&Aの前半フェーズ、DD・契約交渉を後半フェーズに分けるとすると、意向表明書や基本合意書は、中間地点における買手から売手への暫定的な条件提示の意味合いを持ちます。

意向表明書と基本合意書は、両者の違いについて明確な定義はないですが、意向表明書は買手から売手へ、中間地点における提示価格・譲渡契約条件の考えや今後詳細な検討を進めるにあたって希望を伝えるための書類であるのに対し、基本合意書は詳細な条件交渉を開始するにあたって両社間で主要な譲渡契約条件を確認・合意するために作成されます。

そのため、一般的には、意向表明書の形式は複数の買手候補がいるオークション案件の中で売手がそれぞれの候補先から入手する書類とされることが多いです。
一方で、基本合意書は、1社の買手候補と売手との相対取引の場合に、両社がサインした上で一定のコミットメントを示すための書類となることが多いです。

内容は案件によってカスタマイズすることになりますが、通常は以下の内容を織り込みます。

■ 買収の目的・背景(通常は意向表明書のみの記載事項)
 - 買手が考える買収の目的や事業戦略等の背景
 - 売手にとってのメリットの説明

■ 取引の想定ストラクチャー
 - M&A取引の主体(買手および売手がどの会社になるか)
 - 想定する取引の形態(株式譲渡・事業譲渡・その他のストラクチャーの概要)
 - 譲渡対価(現金・株式・その他)

■ 譲渡価格の評価および評価の前提
 - 意向表明/基本合意の時点における譲渡対価
 - 譲渡対価算定にあたって前提とした事項の説明
 - 提示価格が変更となる可能性がある場合の要素

■ 独占交渉権
 - 一定期間における独占交渉権や第三者への接触禁止期間の確保
 - 独占交渉権の設定可否や期間は売手と買手との間の交渉力次第

■ 法的拘束力の範囲
 - 通常は法的拘束力は持たせない
 - 秘密保持や独占交渉権等に関する事項については部分的に法的拘束力を持たせることが一般的

■ その他
– 今後のスケジュール・必要な意思決定
– DDの範囲

意向表明書や基本合意書は、プロセス上必ずしも作成しなければならないものではないですが、買手と売手との間で一定のコミットメントを示す目的で取り交わされることが多い書類です。

特に複数の買手候補がいる案件では、各買手候補が売手に提出した意向表明書の記載内容を比較することによって、どの候補先にDD・契約交渉に進ませるべきかを決定します。

これらの書類は基本的には法的拘束力を持たず、DDで識別された事項を考慮した上で契約交渉を進めることになりますが、意向表明書や基本合意書の段階で合意した内容を大きく変えられるものではないことに注意が必要です。

また、両当事者間の誠実な協議という観点から、意向表明/基本合意が行われた場合はどちらかの都合で一方的に取引の検討を中止することが難しくなることも留意点です。

意向表明書と基本合意書は、常に両方の書類が必要となるものではなく、どちらかを取り交わすケースや、売手が意向表明書を提示した後に、改めて両社の合意事項を確認する目的で、両社サインのもと基本合意書を取り交わすケースが考えられます。

最終契約書

最終契約(Definitive Agreement: DA)の締結は、M&Aプロセスを通じて検討してきたストラクチャー、DDで識別したリスク、リスクへの対応策が、買手・売手の権利義務の形で文書に織り込まれるプロセスであり、M&Aにおけるひとつの大きな通過点となります。
そのため、契約交渉はM&Aプロセスにおいて最も重要なステージであると言えます。

DAの種類や内容は、案件ごとに異なるものが作成されます。
スキームによっては株主間契約(Share Holders Agreement: SHA)やトランジションサービス契約、業務委託契約等、複数の契約書を作成すべく、相手方と交渉していくことになります。

DAが締結されれば、その後DAに定める手続を履行の上、M&A取引の実行(クロージング)に進みます。
一般的には、DA締結日と取引実行日(クロージング日)は異なり、DA締結後からクロージングまでに、1ヵ月~数ヵ月程度の期間を置き、取引実行までの準備や法定手続を両当事者が進めます。当該期間における手続についてもDAに記載されます。

また、M&Aにおいては、買手が負う対象会社に関する潜在的リスクを軽減する目的で、一定期間の売手に対する金銭的な補償請求を設けることが一般的であり、その内容もDAにおける重要な規定事項の一つです。

株式譲渡契約書の基本構成

最終契約(DA)の種類は、株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割等のM&Aのスキームによって異なり、内容もそれらの種類に応じて異なるものとなります。

本稿では、最も基本的なスキームとされる株式譲渡に関して、株式譲渡契約(Share Purchase Agreement: SPA)の基本構成について説明します。
(ここでは基本的な枠組みのみで、それぞれの詳細および項目の具体例は別記事にて解説します。)

■ 取引のストラクチャー
 - M&A取引の主体(買手および売手がどの会社になるか)
 - 取得割合
 - その他ストラクチャーの概要

■ 譲渡価格
 - 譲渡価格
 - 価格調整条項

■ 取引実行日(クロージング日)
 - 譲渡対価と対象会社株式の受渡日
 - 通常は契約締結日とクロージングは異なる

■ クロージングの前提条件
 - クロージング日までに実行しなければならない手続や条件に関する規定
 - クロージング日までに前提条件が充足されない場合は譲渡実行の義務は生じない(両当事者が前提条件を放棄することで取引の実行は可能)

■ 表明保証
 - 各当事者が相手当事者に対して、ある時点(契約締結日およびクロージング日)において、一定の情報が真実かつ正確であることを表明し保証する
 - 買手・売手・対象会社の存在に関する基本的な情報や、売手がDDにおいて開示した情報の適切性等が表明保証の対象とされる
 - 通常は売手による表明保証の方が多く定めれる

■ 誓約事項
 - 各当事者の株式譲渡契約締結日以降の行為に係る義務を課す条項
 - 通常はクロージング日までの誓約事項とクロージング日後の誓約事項に分けて規定される
 - 売手の義務は、買手が取得する譲渡対象株式の価値を毀損させない内容が多い
 - 買手の義務は、対象会社の従業員の雇用条件維持等、労務関連の事項が対象となることが多い

■ 補償
 - 表明保証、誓約事項、その他株式譲渡契約上の義務に一方の当事者が違反した場合に相手方当事者が被った損害を補償させるための規定
 - 損害賠償金額の上限(通常は譲渡金額の一定割合)や下限(1件あたりの損額の足切り額)、補償の有効期限を取り決める
 - 株式譲渡契約時点で両当事者が認識している重要事項があれば、個別に上限額や期限を設定することもある(特別補償)

■ 契約解除条項
 - クロージング日までに前提条件を含む一定の条件を満たしていない場合に株式譲渡契約を解除できる旨の定め
 - その他株式譲渡契約の違反があった場合の解除等

■ 一般条項
 - 秘密保持、相互の通知義務、費用負担、準拠法・管轄裁判所等

SPAに記載する項目は相互に複雑に関連し合うものであり、特に表明保証や誓約事項に記載すべき内容や、それらの違反による顛末をどのように定めていくか(契約解除または金銭的な補償等)、法的な専門知識を要求される構成となります。

中には理解しにくい用語や言い回しが登場することも多いですが、重要な契約であるからこそ、締結にあたっては、全ての内容を十分に理解する必要があります

まとめ

M&Aの契約関連文書は複数の種類が存在し、特に最終契約書には複雑な条項が多く含まれます。
専門的な知識や経験がなければ、契約交渉の時に買手・売手の間で協議した内容が十分かつ適切に織り込むことができず、結果として希望する内容と異なる取り決めになってしまうリスクがあります

トラブルを未然に防ぐためにも、契約交渉や契約書作成の経験豊富な専門家からアドバイスを受けながら着実に進めることが望ましいと言えるでしょう。

また、アドバイザーに依頼する場合であっても、最終的にどのように文書化されるかを理解した上での契約交渉の実践や、アドバイザーに対する的確な指示を行うためにも、これら関連知識を独自に持っておくことが必須となります。

買手・売手の想いや懸念点を契約書の形で具現化するものが契約書です。M&A取引から生じる様々なリスクが、契約書の一文によって軽減できることもありますので、専門家を交えた十分なご検討を行うことをご検討ください。

当社でも、契約交渉や文書作成を含む、M&Aに関するフルスコープでのサポートを行っております。また、各種契約書類の一般的なひな形等も有しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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