M&Aの基本的な流れとは?買手・売手双方の各プロセスにおけるポイントを説明します

M&Aの進め方

M&Aのはじめから取引完了までのプロセスは個々の案件により異なりますが、プロセス進行中の主要なイベントやそれぞれの段階にて検討する事項にはある程度共通点があります。
一般的なポイントを押さえつつ、網羅的かつ精緻な論点検討を意識して進行することが、M&Aの目的を達成するために重要となります
本稿では、M&Aの基本的な流れと各ステップにおける検討事項や留意点について解説します。

M&Aの一般的な流れ

M&Aの流れはよく結婚に例えられますが、大まかな流れとして、相手のことを知る、プロポーズをして婚約、一定の準備期間を置いて結婚、といったような主要なイベントがあり、各段階で取引の当事者である買手・売手が考えなければいけないことや協議しなければいけないことが多く存在します。

買手にとっては社運を賭けた取引、売手にとっては成長させてきた会社や事業の正当な評価を得る機会となるため、双方にとって非常に重要な数ヵ月間となります。だからこそ初期段階から十分に社内検討を行い、相手とのコミュニケーションも綿密に行っていくことが重要です

以下では買手・売手に分けて一般的な流れや実施事項をまとめました。

プロセス 検討事項
買手 売手
M&A事前準備/譲渡相手の選択
  • 買収目的の明確化・ゴールの設定
  • 自社とのシナジーの有無の検討
  • 相手の資金力
  • 自社とのシナジーの有無の検討
  • 売却にあたってのポジションの明確化(価格、M&A後の経営体制、従業員の処遇等)
初回面談
  • トーキングポイントの整理
  • 初対面ということであればお互い自己紹介
  • 交渉にあたって重要な前提条件があれば可能な範囲で会話をしておくと後々ブレイクする可能性を和らげることができる
初期的情報開示
  • 初期的な情報提供依頼
  • 基本合意前であるため入手できる情報は限定的であることに留意
  • 過去3年間程度の財務諸表や将来3~5年間の事業計画が入手できると望ましい
  • 初期的開示情報の準備
  • この時点では基本的に手持ちの情報を中心に基礎的情報を提示するのみで良いが、あまりにも情報が少ないと、相手が検討を進められなかったり情報が揃っておらず管理能力が不十分と判断されたりすると、案件が中断する可能性があることに注意
初期的検討
  • 初期的な開示資料に基づいて、対象会社の事業分析を行う
  • 基本合意書/意向表明書の作成に向けて株式価値評価・提示条件の検討を行う
  • 相手からの質問には可能な範囲で回答
  • この時点で多くの情報を開示しすぎるとノウハウ・技術の流出のおそれがあるという状況であれば、ある程度制限することが望ましい
基本合意/意向表明
  • 買手から売手に意向表明書を差し入れる場合や、両社でサインする基本合意書を取り交わす場合がある
  • 記載される条件はほとんどの場合において法的拘束力を持たないものだが(秘密保持や独占交渉権などの一部項目を除く)、ここで合意した内容を基に契約交渉を進めていくことになるため、基本合意の内容から大きく変えられるものではないことに注意
デュー・ディリジェンス(DD)
  • DDで開示依頼する情報をリストにして売手に提出
  • 入手情報を基に事業・財務・税務・法務・人事・IT等の買収監査(DD)を行う
  • 必要に応じてDDの専門家を起用する
  • DDの受入準備
  • DD実施期間中の資料開示・質問回答の対応
  • 買手の要望によっては追加の情報整理や新たな資料を作成する必要もある
契約交渉
  • DDで発見した事項を基に基本合意/意向表明の内容に調整を加えたり、より詳細な条件を盛り込んで契約書案を作成する
  • 株式譲渡契約の合意に向けて売手と協議を行う
  • 株式譲渡契約の合意に向けて買手と協議を行う
  • 好条件を望むためには追加の情報開示や説明が有効な場合がある
契約締結
  • 条件の合意が完了したら株式譲渡契約を締結
  • 売手が引き続き対象会社の株主に残るのであれば株主間契約等の付随契約も同時期に合意しておく
クロージングまでの対応
  • 株式譲渡契約に定める取引の前提条件充足のための各種対応
  • 独禁法等の法規制対応
  • 合併や会社分割等のスキームによっては株主・債権者保護手続が必要になる
  • 買手と売手が協力することによる従業員説明・労務関連引継も重要なタスク
クロージング
  • 株式譲渡契約に定める取引の前提条件充足を確認したら、譲渡代金の支払および株式の受け渡し・名義書換を実施
  • 株券発行会社の場合は株券現物の準備
  • 合併等のスキームによっては変更登記申請が必要


M&A事前準備/譲渡相手の選択

譲渡価格を含めた契約条件を両当事者で協議していくにあたって、両者間で取引の事項に関して一定のコミットメントを示す手順が基本合意となります。

初期段階においては、お互いが興味を持っているがまだ相手のことをよく知らないというシチュエーションであることが多く、そのためにまずは会社や事業の概要、強み、財務実績・事業計画といった基本的な情報を買手から売手に開示していきます。

この段階ではまだ両者間で100%の確率でM&Aを実行しようという合意があるわけではなく、情報開示を受けた結果、案件が破談になることは少なくありません。
そのため、売手としては、技術やノウハウの流出をおそれ、詳細な情報はなるべくDDに開示するとして、基本合意の段階では事業の具体的な情報は控えたいという思いがあります。

一方で、買手としては、初期段階だからといって情報開示が限定的すぎると、その先の検討まで進むのが困難という状況や、情報の整備状況から対象会社の管理レベルに不安が生じて、もうその先まで検討する必要がないと判断する可能性があります。また、売手の準備不足が原因ではなく、非常に将来性のある会社が譲渡対象となる案件において、競争相手が多いいわゆる人気案件において、あまりに多くのものをこの段階において要求しすぎると、買手の立場では不利になることがよくあります。

このように、売手は一定の情報開示をしないと興味を持たれないという事情がある一方なるべく情報は開示したくない買手はある程度情報を出してもらわないと検討が進められない、だがあまり要求しすぎると図々しく見られるといった状況が生じます。

そのため、基本合意または買手による意向表明書の提示までのプロセスは非常にバランスが重要なフェーズであると言えます。

デュー・ディリジェンス(DD)~契約締結

基本合意や買手からの意向表明書提示によってM&Aに一定の方向性が固まってきたら、詳細なプロセスとして、買手によるDDに移ります。
M&Aにおいてこのプロセスが最も重要であり、両当事者がそれぞれを深く理解し合う機会となります。

買手は、DDの範囲として事業・財務・税務・法務・人事・IT等の項目の中から必要に応じて詳細なチェックを行います。このプロセスは買収監査とも呼ばれ、必要に応じて各分野の専門家を起用した上で実施されます。

実施期間は通常2~4週間程度を要し、小規模の案件では1週間または土日2日で集中的に実施することもあります。
その期間において、売手は買手からの追加の資料開示や質問回答の要望に応えることでプロセスが進みます。必要に応じて、事業所の視察やキーパーソン・実務担当者へのインタビューがこの期間で行われます。

DDが完了すると、買手は詳細分析の結果発見した事項を整理して、最終契約の内容を検討します。また、最終的な買収価格を提示するために株式価値評価を精緻化していきます。基本合意の段階では認識していなかった要素(ポジティブな面・ネガティブな面の両方)を、株式譲渡契約上の譲渡価格または契約条件に織り込むべく、契約交渉が行われます。

買手としてはより安く買いたい・買収後に何か不測の事態が生じた場合は売手にその責任を負わせたい、売手としてはより高く売りたい・売却後のことは責任を負いたくない、という相反する希望を持っているので、時にはこの段階まで来て破談になってしまうケースも少なからずあります

交渉時のポイントは、決して全ての面において勝利することを目標とするのではなく、Win-Winとなる道筋を探しながら譲れない部分を良く整理して獲得していくことにあります。そしてもしお互いの意見が合わない場合は、譲渡価格やその他の契約条件をセットにして考え、落としどころを探していくプロセスとなります。

そのため、ここでも相手の考えを良く理解しながら進めるバランス感覚が非常に重要となります。両当事者にとって非常に慌ただしい期間となりますが、タスクの整理を十分に行い、両者間の合意に向けた適切なコミュニケーションとプロセスのコントロールが必須となります。

クロージング

契約締結を終えれば大きなひと山を越えた状況と言えますが、その後も要対応事項は残っており、最後まで息を抜くことはできません。

株式譲渡に向けた経営体制の見直し、従業員への説明・労務関連の引継ぎ、事業拠点の整備等のいわゆる買収後の経営統合(Post Merger Integration: PMI)の推進や法令で定められる手続への対応がタスクとして残っています。

法定手続に関する主なものは、買手および対象会社の規模によっては独禁法対応が必要となったり、合併や会社分割によって取引を実行する場合には一定期間の株主・債権者による異議申立期間を設けるケースがあります。

いずれの場合でも、確実なM&Aの完了のために日次でタスクのスケジュールを組み、両当事者間で進捗を管理していくことが望ましいです。

まとめ

本稿では一般的なM&Aの流れについて、買手・売手で対応が必要となる事項について説明しました。一般論をある程度参考にすることは重要ですが、具体的な論点や対応事項はやはり個々の案件の特性によって変わってくるものです。

M&Aによって期待する成果を実現させるためには、それら論点に丁寧に対応していく必要があります。実際に交渉中の言葉遣いひとつで破断となった事例も過去に多くあり、お互いを尊重しながら慎重に進めることが必要です。

本来であれば取引が成立し、より大きな成長を遂げることができたという事例も数多く存在したと思います。そのような可能性を幻としないためにも、検討初期段階、DD、契約交渉のフェーズでは特に、経験を有する第三者が間に入ることで会話がスムーズになる場合も実際にあるので、アドバイザーの起用を是非ご検討ください。

当社でもM&Aの全体を通してアドバイザーとしてサポートさせていただいていますので、まずはお気軽にご相談ください。

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