事業承継税制の適用効果と要件は?制度のポイントや留意点を解説!
事業承継により次世代に経営や会社の所有権の譲渡を検討するにあたっては、税金の話は切り離せない問題です。
特に、経営者ご自身の子に継がせるケースは依然として多くありますが、その場合は、多額の相続税・贈与税を負担する可能性やそれらの回避策については、多くの経営者が気になるポイントであると理解しています。
非上場会社株式に係る相続税対策のひとつに「事業承継税制」というものがありますが、全ての経営者様にとってメリットのある制度と言えるのでしょうか。
本稿では、親族への事業承継を行う場合に一定の要件を充たせば適用可能な事業承継税制に関して、適用要件や留意点を解説します。
[ご注意]
本記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が未更新で整合しない場合がございます。
目次
はじめに-事業承継の3つのパターン
中小企業のオーナーにとっての事業承継の候補として、①親族、②従業員、③第三者(M&A)が考えられます。
それぞれ、譲渡対価の決定の仕方や発生する税金の種類や適用される税制度に違いがあります。
①親族への承継
オーナー経営者の子や親戚が事業を承継するケース
②従業員への承継
役員や従業員等、事業にこれまで関係してきた人物が承継するケース
③第三者への承継(M&A)
元々関係がなかった第三者に対して株式譲渡・事業譲渡・合併等のM&A手法を用いて承継するケース
いずれのケースにおいても、現経営者に関する株式の譲渡損益に対する所得税や、承継者に関する贈与税や受贈益が生じる可能性があります。
この中でも①親族への承継においては、相続税法の適用および相続税に関連する特殊な取り扱いが存在するため、前もって知っておくと事業承継を行う際に役立つ場面があるはずです。
なお、事業承継税制は親族ではない後継者への贈与に対しても適用可能ですが、その場合の留意点は別の記事で説明します。
事業承継税制について
事業承継税制の創設背景
オーナー経営者の親族である個人が、会社の株式を相続または贈与により取得する場合においては、株式の評価額によっては、多額の相続税や贈与税が課税されてしまう可能性があります。
しかし、非上場会社の株式というものは、いつでもすぐに外部に売却できるとは限らず、換金性が低いことが通常です。
そのような中、税負担が先行して納税資金が確保できない事態を避けるために、経営者が子や親族へ事業を承継する場合には、一定要件のもとで相続税・贈与税の納税が猶予される制度が設けられています。
この制度を一般に「事業承継税制」と呼びます。
事業承継税制の適用要件
事業承継税制の適用にあたっては、会社、先代経営者、後継者にそれぞれ一定要件に当てはまることが求められます。
先代経営者と後継者の要件は、相続 もしくは 贈与のどちらによって承継を行うかで、一部の要件が異なります。
- 会社に関する要件
– 非上場
– 中小企業基本法上の中小企業者
– 資産管理会社ではなく事業を営んでいること
– 総収入金額および従業員数が0ではないこと
– 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、適用要件を満たすことについての経済産業大臣の認定を受けること - 先代経営者に関する要件
– 会社の代表者であったこと
– 同族関係のある者を含めて、会社の50%超の議決権を保有していたこと
– 同族株主のうち、後継者を除いた者の中で最も多くの議決権を保有していたこと
【贈与で承継する場合の追加要件】
– 会社の代表者を退任していること
- 後継者に関する要件
– 会社の代表者であること
– 同族関係のある者を含めて、会社の50%超の議決権を保有していること
– 同族株主の中で最も多くの議決権を保有していること
(後継者が2人または3人の場合は、議決権の10%以上を保有し、かつ、他の後継者を除き、最も多くの議決権を保有していること)
【相続で承継する場合の追加要件】
– 相続開始前から会社の役員であったこと(先代経営者が70歳未満で死亡した場合を除く)
【贈与で承継する場合の追加要件】
– 20歳以上であること
– 贈与時点で役員就任から3年以上が経過していること
申告要件
– 申告書および添付書類の税務署への提出
– 納税が猶予される相続税額および利子税の額に見合う担保を提供
(ただし、対象非上場株式の全部を担保提供する場合は、必要担保額に見合う担保提供があったものとみなされる(譲渡制限が付されている場合でも担保提供可能))
納税猶予額
特例対象となる承継者が譲り受けた非上場会社株式の価額
(=非上場会社株式の1株当たり株価 × 承継者が取得し申告書に記載した株数)
納税猶予の打切事由
事業承継税制では、事業の継続および後継者が会社の代表者兼株主として継続関与することが要件となっており、次に該当した場合、その日から2ヵ月の間に猶予されている相続税(または贈与税)および利子税を納付する必要があります。
– 対象会社株式の一部または全部を譲渡した場合
– 承継者が会社の代表者ではなくなった場合
– 会社が事業を停止した場合(資産管理会社になった場合を含む)
直近の税制改正
事業承継税制自体は平成21年度税制改正によって創設されたものですが、創設から最近までは、納税猶予の対象となる株式数や税額に制限が設けられていることで、使い勝手が良くなく、適用されるケースは多くありませんでした。
その後、平成30年度税制改正により、深刻化する事業承継問題に対処する目的で、10年間の時限措置として、特例が創設されました。
この改正により、納税猶予対象の制限撤廃や対象者の要件の緩和が図られ、制度を活用しやすくなりました。
従来からの措置 | 特例措置 | |
適用対象となる株式数 | 発行済株式数の2/3まで | 全株 |
納税猶予される税額 | 対象の株式価額のうち80% | 対象の株式価額の100% |
適用対象となる当事者 | 1人の後継者のみ | 3人まで適用可能 |
納税猶予の打切要件 | 従業員数の8割を雇用維持できない場合は全額打切り | 雇用維持の要件は撤廃 |
経営者による円滑な事業承継が一層社会課題となる中、ほとんど活用されることがなかった制度が、平成30年度の税制改正によって大幅に改善され、利用促進が図られているという経緯があります。
事業承継税制のメリット・留意点
平成30年の税制改正により、使い勝手が増した制度ですが、それでもなお、実際に適用するには検討すべき論点があります。
以下では、税制改正も考慮した上で、事業承継税制のメリットと留意点について整理します。
メリット
– 株式に対する相続税・贈与税の支払猶予
事業承継税制では、打切事由に該当し途中で納税猶予取消にならない限りは、後継者に税負担はなく、一族経営が安定的に継続できることが最大にして唯一のメリットと言われています。
留意点
一方で、制度の適用にあたっては、以下のような留意点があります。
– 納税猶予が取消となる条件があり、抵触するとすぐに納税義務が生じる
– 事務手続が煩雑
– 納税額とその利子税に見合う担保提供が必要(対象非上場株式を担保として提供可能)
– 後継者の要件として、承継前後で会社の役員や代表者として継続関与する必要があるため、そもそも適用ができないケースがある
事業承継税制特例の使い勝手
事業承継税制のメリットは、相続税や贈与税の納税猶予を受けられるという点ですが、相続税法においては、最低3,000万円の基礎控除額が設定されており、その控除金額まではそもそも課税がされないという点があります。
(※ 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×法定相続人の数)
そのため、非上場株式の評価額によっては、課税が生じないことも十分に考えられます。
その場合は、ペナルティや煩雑な手続がある事業承継税制を活用するよりも、相続時精算課税を適用することで、課税の繰延は十分に目的が達成できる可能性がありますので、全般的な相続税・贈与税の対策の一環として、税金額のシミュレーションを専門家に依頼して行っておくといいでしょう。
(相続時精算課税とは、贈与財産評価額のうち2,500万円までに対する贈与税を、相続時まで繰り延べられる相続税法上の措置。詳細は別記事にて解説します)
もちろん非上場会社の中には、数億円・数十億円という相続税法上の評価が付く会社もありますが、その場合には、第三者への譲渡を選択肢に含めることも、事業承継・相続対策のひとつとなるかもしれません。
まとめ
現代における事業承継に係る社会問題に対応すべく、事業承継税制が創設されしばらく時間が経っています。
事業承継税制は、近年の改正によって特例が創設され、適用のハードルが下がっているものの、全ての経営者とその後継者が適用できるほど万能なものではなく、納税猶予という文字のみを受け入れて制度を利用しようとすると、期待どおりの内容ではなかったという事態になりかねません。
事業承継税制を含めた相続税・贈与税に関する取扱いを正しく理解し、早めの承継対策を講じることが重要であり、そのためには、専門家である税理士へのご相談がおすすめです。
事業承継税制の適用には、経済産業省が認定する経営革新等支援機関(認定支援機関)の関与が必要です。
S&Gパートナーズでは、グループの税理士事務所にて認定支援機関として税制優遇措置の適用に係る支援を行っておりますので、M&A・事業承継に関するご相談とセットでの支援を提案させていただくことができます。
また、親族に対する相続や贈与による事業承継のみならず、第三者へのM&Aによる譲渡というものも近年では注目を集めており、税金の論点のみならず幅広に検討していくことが理想というケースもあります。
当社では、M&A・事業承継に関する諸論点に加えて、税理士による相続税・贈与税に関するアドバイスも含めた支援が可能ですので、ご不明点等があればお気軽にご連絡ください。
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この記事を書いたのは
S&Gパートナーズ株式会社
代表取締役
税理士・公認会計士
有限責任監査法人トーマツでの勤務の後、M&AブティックファームおよびデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーでのM&Aアドバイザリー経験を経てS&Gパートナーズ株式会社および志村俊光税理士・公認会計事務所を設立。
M&Aアドバイザリー業務・財務デューディリジェンス・企業価値評価業務の経験と会計プロフェッショナルとしての知識を活かし、会計・税務の高い専門性を要するM&A取引のアドバイスを得意とする。
税理士登録番号: 144964
公認会計士登録番号: 32131