M&A用語集
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英数字
アドバイザリー契約
M&Aを実行する際に、売手企業や買手企業がM&AアドバイザーもしくはM&A仲介会社からアドバイスや実際の手続の支援を得ることを目的として締結する契約。
一般的には、対象M&A取引、業務範囲、秘密保持、報酬、免責事項などに関連する事項が契約書に記載される。
アンレバードベータ
負債での資金調達による財務リスクを度外視したベータ(β)。
財務リスクを含むβをレバードβといい、レバードβを以下の計算式によってアンレバードβに修正する。
βU = βL ÷(1+(1-t)× D/E)
βU: アンレバードβ
βL: レバードβ
t: 実効税率
D: 負債
E: 株主資本(時価ベース)
インカムアプローチ
企業価値評価の手法のうち、対象会社から将来期待される利益ないしキャッシュ・フローに基づいて価値を分析する手法。
代表的な手法としてDCF法がある。
インカムゲイン
株式や債券の元本の時価変動に関係なく得られる配当金や利息などの収益。
インサイダー取引
会社の重要情報が公開される前に、その情報を利用して会社の株式等を売買する行為。
金融商品取引法では、重要情報として、会社の株式の発行などの決定事実、主要株主の異動などの発生事実、会社の決算情報など、広く「投資社の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」として列挙されている。
エクイティファイナンス
新たな株式の発行による資金調達の方法。
エクイティファイナンスには返済の義務はなく、投資家は配当や株式譲渡によって投資を回収する。
エスクロー
M&Aの買手と売手との間に第三者である金融機関が入ることで、譲渡代金決済の安全性を確保する仲介サービスのこと。
売手および買手が合意する第三者であるエスクロー・エージェントに一定期間、譲渡代金の一部を預け、売手に補償責任が生じれば、当該補償責任に対応する金額は買手に払い戻され、それ以外については一定期間後に譲渡代金の残高として売手に払い出される仕組み。
オプション
デリバティブ取引のうち、対象となる資産や指数値の変動に対して、一定条件で権利行使することによって売買を行うもの。
満期までの間にあらかじめ定められた価格で買う権利をコールオプションと呼び、売る権利をプットオプションと呼ぶ。
オフバランス(オフバランスシート)
資産や負債になり得る項目が貸借対照表に載っていないこと、またはその状態にすること。
その分だけ貸借対照表の資産・負債をコンパクトにし、収益性等をよく見せることができる。
会社分割
M&Aの取引形態の1つで、会社にある資産・負債を分割して別の会社に譲渡する手法。
会社分割には、承継する会社が新設会社である新設分割と、既存の会社である吸収分割がある。
加重平均資本コスト(WACC)
負債の資本コストと株式の資本コストを、負債比率と自己資本比率で加重平均した割合。投資家である債権者と株主が期待する収益率を、それぞれの資本構成割合で加重平均した値の意味合いを持つ。
企業価値評価では、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割引計算する際の割引率として用いられる。
合併
M&Aの取引形態の1つで、複数の会社が契約により1つの法人格に統合する手法。
合併には、当事会社の全てが消滅し、新設会社として統合する新設合併と、当事会社のうち1社が存続し、存続会社に統合する吸収合併がある。
株式移転
M&Aの取引形態の1つで、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることにより、完全親子会社関係を作る手法。
2社以上の株式会社が共同で親会社を設立することを共同株式移転といい、持株会社化のスキームで用いられる。
株式価値
企業価値のうち、株主に帰属する部分の価値。
企業価値から有利子負債額を差し引いた金額に相当する。
株式交換
M&Aの取引形態の一種で、買収企業が被買収企業の発行済株式の全てを取得し、100%子会社にする手法。
原則として株主総会特別決議が必要。
株式譲渡
会社の既存株主が保有株式を他に移転する取引。
M&Aの手法の中で最も一般的な形態。会社法上、定款により株式譲渡を制限することができ、そのような定めを置いている会社を非公開会社という。
株式譲渡契約(SPA)
株式譲渡取引において、売手と買手との間で締結される契約。
SPA(Share Purchase Agreement)と略される。
株式リスクプレミアム
株式市場に投資することにより負担するリスクへの対価。
リスクフリーレートに対する株式の超過リターンのことをいう。
株主間契約(SHA)
複数の株主間で、保有する株式に関して、ある一定の事項に関する取り決めを行うことをいう。
M&Aにおいては、売手や複数の株主間におけるM&A後の会社の運営方針やルールに関して、会社法などで定められる株主の権利と異なる取り決めを行う場合に用いられることがある。(株主間同意事項、株式譲渡制限、株式売渡請求権 等)
株主総会
株式会社の基本方針を定める最高意思決定期間のことをいう。
株主総会の決議事項には、出席株主の過半数の決議で決する普通決議と2/3以上の賛成を必要とする特別決議がある。
特別決議が必要な事項には、資本金の減少、定款の変更、重要な事業の譲渡、組織再編行為等の経営に重要な影響を及ぼすものが規定されている。
議決権の1/3超を保有する株主がいる場合、その株主が特別決議事項に反対する場合は決議が行えないため、「拒否権」を持つと言われる。
簡易組織再編
組織再編行為のうち、譲渡対象資産の規模または譲渡対価の規模の観点から、組織再編当事会社及びその株主に及ぼす影響が比較的少ないものについて、株主総会決議による承認を要することなく効力を生じさせることが認められたもの。
移転する資産の帳簿価額の合計額が、当該会社の総資産額の5分の1を超えない場合 かつ 資産を移転する会社ないしその株主に対して支払う対価(組織再編の相手方に交付する新株と新株以外の財産の合計額)が、資産を承継する会社の純資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会の決議を省略することができる。
ガン・ジャンピング
M&Aにおいて競争法(独占禁止法)に関係する論点の一つ。
ガン・ジャンピング(Gun Jumping)とは、陸上競技でいうフライングを意味し、M&Aにおいては、企業結合が実現する前の段階において、当事会社同士が行う情報交換が、競争法違反の問題を引き起こす事態の総称をいう。
M&A完了前の段階における経営に関する機密情報の開示や、経営統合に向けた具体的な協議等が競争法上違反とみなされる可能性がある。
競争法に関しては各国にそれぞれ審査機関があり、競争法違反と判断する行為や協議内容は国によって異なるため、特にクロスボーダーのM&Aにおいて論点となる。
企業価値(EV)
証券投資やファイナンスで、投資家の立場から企業の資産を現時点で評価した値をいう。
企業価値評価には、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチと呼ばれる複数の考え方がある。
EV(Enterprise Value)と略される。
議決権
株式会社の基本方針を定める最高意思決定機関である株主総会に参加し、総会での決議事項に賛否を表明する権利。
基本合意書
M&A取引の諸条件を最終的に確定する契約書の締結に先立って、その協議・交渉の過程の中途段階において行われる、売手と買手との間の合意書のことをいう。
一般的には、デューディリジェンスを開始する前において、限定的な情報を基に検討・協議される。LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understanding)などとも呼ばれる。
キャピタルゲイン
時価変動するリスク資産の価格が購入時点より上昇した高い価格で売却して得られる利益。
逆に価格が下落した状態で売却した時に生じる損失をキャピタルロスという。
競業避止義務
M&Aにおいて、売手が譲渡した企業と同一または関連する事業を行うことができないとする義務。
具体的な内容は株式譲渡契約書などで定められ、競業を禁止する事業内容、地域、期間などの条件が通常設定される。
業務提携
資本の移動を伴わない提携であり、企業が共同で事業を行うことで、お互いが資金、技術、ノウハウ、人材等の経営資源を提供し合うことで事業成長を目指すもの。
具体的には、ライセンス契約や共同研究開発契約等の形態によって、お互いの販売力・生産力・技術力・人的資源の強化・補充を行う。
クロージング
最終契約書に定められるM&A取引を実行することであり、具体的には、対象となる株式や事業の引渡し手続と、譲渡代金の支払により、経営権の移転が完了すること。
公開買付(TOB)
株式買付けの意向を公開して、不特定多数の株主から株式を買い付ける行為。
日本では公開買付をTOB(Take Over Bid)と呼ぶことが多い。
日本の金融商品取引法では主に、上場会社株式の取得について、買付け後の株式等所有割合が1/3を超える場合は、公開買付の実施が義務付けられている。(一定の場合には、5%超の取得で公開買付が義務付けられる)
コーポレートガバナンス
企業の経営者の監視や規律付けを行うことやその仕組みを意味し、企業統治と訳される。
経営の監視については、単に企業の不正や不祥事が起こらないようにするという範囲にとどまらず、株主のために株式価値を高める努力をしているかどうかも重要とされている。
コストアプローチ
企業価値評価の手法のうち、対象会社の貸借対照表の純資産に着目して価値を分析する方法。
代表的な手法として、簿価純資産法、修正簿価純資産法、時価純資産法がある。
コベナンツ
M&A取引の最終契約書における、一定の行為を行う または 行わない義務。
実務上は、最終契約締結からクロージングまでにおける義務と、クロージング後の義務の区分で定められ、当該義務違反に対しては、金銭的補償、最終契約の解除、M&A取引の中止といった措置が取られる。
コントロールプレミアム
企業を支配する株主にとっての、その保有する支配権に相当する価値。
支配権を持つ株主は、取締役の選解任等を通じて会社をコントロール可能であり、事業運営方針や配当政策等の決定に関与できるのに対して、少数株主は配当の受領や株式の売却による利益の獲得が主な投資回収となるため、両者にとっての価値が会社の支配権の有無によって異なるという考え方がある。
債務超過
貸借対照表において、負債の額が資産の額を上回っている状態、すなわち純資産がマイナスとなっている状態をいう。
財務デューディリジェンス
M&Aにおいて実施するデューディリジェンスのうち、財務分野に関して行う調査。
一般的に、過去の財務諸表などを基にして、対象会社の財政状態、損益の状況、資金の状況を多面的かつ詳細に把握する手続であり、対象会社の資産や負債、運転資本、資金繰り、正常収益力、管理会計などの調査を行う。
M&Aの検討においては、会社の資産評価の妥当性と負債の網羅性が重要な論点であり、特に偶発債務を含めた簿外債務の有無の調査は、財務デューディリジェンスにおいて最重要項目とされる。
三角合併
吸収合併の形態をとる合併のうち、合併による消滅会社(被合併会社)の株主に対する合併の対価が、存続会社(合併会社)の親会社の株式である合併をいう。
時価純資産額法
企業が保有する資産および負債を時価評価した上で、修正後の純資産を基準に株式価値を分析する手法。
事業承継
非上場企業における事業承継とは、オーナー経営者が保有する株式と経営を後継者に引き継ぐことである。M&Aによって第三者に譲渡することも広い意味での事業承継といわれる。
近年では、事業承継の手段としてM&Aが増加傾向にある。売手側のオーナーにとっては、後継者問題、従業員の雇用、相続税対策などに有効であり、買手側企業にとっては、技術・ノウハウ・ブランド・人材等の獲得による事業の拡大・多角化・競争力の強化において時間・コストを節減できる効果がある。
事業譲渡
M&Aの形態の1つで、事業を売却し、その対価として主に現金を受け取る取引。
通常は、譲渡の範囲として、一定の事業を営むのに必要な有機的一体として機能する有形・無形資産とされるが、事業譲渡契約によって詳細に決定される。
シナジー効果
複数の経営資源を用いることで、個別資源の価値の単純合計よりも大きい価値を生み出すことであり、M&Aにおいては、複数企業が一体となり経営資源を統合することによって、販売・生産・研究開発・管理コストなどの面で、効率化が図られることをいう。
資本コスト
資本の受託者である企業が、委託者である株主や債権者に対して負担するコスト。
資本コストは、投資家が企業に期待するリターンでもある。
守秘義務
業務上知り得た機密情報や個人情報を第三者に開示しない義務。
M&Aにおいては、相手方当事者やアドバイザーとの間に秘密保持契約(NDA)を結び、守秘義務違反に対する罰則を設けることが多い。
種類株式
株式の権利の内容が異なる複数の種類の株式をいう。
主に、剰余金の配当、残余財産分配、議決権の制限、譲渡制限などに関する権利について、普通株式とは異なる定めが設定される。
ショートリスト
買収候補先または買手候補先のリストのことであり、初期的候補リストであるロングリストから経営戦略、シナジーの発現可能性、買収の実行可能性等を考慮し、更に絞り込んだリストをいう。
具体的な基準としては、事業内容、製品ブランド力・技術力・地域シェアなどの強み、役員構成、財務状況などが挙げられる。
この基準に従ってスクリーニングされた上位数社に絞込み、それらの会社に対してより詳細な分析や買収の打診を行う。
譲渡制限株式
会社は、定款の定めによって株式の譲渡を株主総会または取締役会等の承認を必要とすることが可能であり、そのようにして譲渡を制限された株式を譲渡制限株式という。
株式の全部または一部に譲渡制限を設けている会社を非公開会社という。
新株予約権
一定の期間内に、あらかじめ定められた価額にて会社の新株を取得することのできる権利をいう。第三者割当増資による新株発行の代表的方法の一つ。
スキーム
買収・M&Aで用いられる手法や形態のことをいう。取得する対象(株式か事業か)や目的、対価、財務・税務影響、対象会社との関係性などから、買収・M&Aの手法を検討する。
スクイーズアウト
完全子会社化を目的としたM&Aにおいて、支配株主が売却に応じない少数株主の保有する株式の全部を強制的に取得し、100%の支配権を確保すること。キャッシュアウトとも呼ばれる。
日本では、90%以上の議決権を持つ支配株主による株式等売渡請求の方法や、株式併合、全部取得条項種類株式を活用したスクイーズアウトが活用されることが多い。
スタンドアローン
M&Aの対象会社や対象事業が、買手とのシナジーを考慮に入れず、独立した状態であると考えること。
シナジーを考慮しない対象会社・事業の独立的な価値をスタンドアローンバリューという。
また、対象会社や事業がM&Aを機に、それまでグループ企業等から提供を受けてきた機能・サービスに関して、買収後に別の企業グループの傘下に入ることにより手当が必要となる項目をスタンドアローンイシューという。
スタンドスティル条項
買手候補が売手の許可なく対象会社株式の取得を一定期間禁止する条項。
主に上場企業が買収対象の場合に、入札手続の初期段階において締結される秘密保持契約に規定されることが多い。
ストラテジックバイヤー
M&Aを行う主体のうち、経営戦略の手段として買収を行う事業体で、事業会社であることが多い。
ストラテジックバイヤーにとって、M&Aの目的は、経営戦略に沿ったシナジー効果の実現で、自社と買収企業の企業価値を向上することである。
スピンオフ
事業や子会社を企業グループから切り離すことをいう。手法としては、分割型新設分割、子会社株式の分配などが考えられる。
成功報酬
M&Aにおける成功報酬とは、案件が成約した場合にアドバイザーや仲介会社に支払う報酬のことをいう。
清算価値法
企業価値評価におけるコストアプローチのうち、企業の存続を前提せず、保有資産を処分することによって得られる金額から、負債を弁済したあとの残余額を基準に評価を行う手法。
税制適格組織再編
合併、会社分割、現物出資、株式交換、株式移転、現物分配などにおいて、法人税法上の適格要件を満たした組織再編のことであり、税務上、移転資産の譲渡損益は繰り延べられる。
税制適格組織再編が認められるためには、移転資産に対する法人支配が、再編成後も継続していることが求められる他、対価要件、事業関連性要件、事業規模要件、経営画策要件などを満たす必要がある。
選択と集中
注力すべき成長事業分野を見極め、その事業分野に対して経営資源を集中的に投下することによって経営効率や業績を高め、競合他社との差別化を図る経営戦略。
第三者割当増資
会社が既存株主以外の第三者に対して、新株を発行し割り当てを行う増資。
チェンジオブコントロール条項
一般の商取引の契約書で定められる条項であり、M&A等により株主や経営権の移動があった場合に、取引先の事前同意や事前通知を必要とする旨の規定。
M&A実行の際には、重要な取引先との契約継続は、対象会社の事業継続においてクリティカルであるため、最終契約において、それら取引先からの事前同意取得や通知の対応を売手の義務とすることがある。
仲介会社
第三者として売手企業と買手企業の間に入り、M&Aの進行をサポートする仲介事業者。M&A仲介会社の特徴は、当事者双方に対して原則中立的・客観的ということである。
適時開示
上場有価証券の発行者が、投資者の投資判断に影響を及ぼす重要情報を金融商品取引所の規則に従い投資者に適時に開示することをいう。
M&Aにおいては、会社の買収や譲渡に関する決定事実についての開示が、一定の金額基準と併せて定められている。
敵対的買収
買収対象会社の経営陣が同意しない企業買収。
多くのM&Aにおいては、対象会社の経営陣や株主が合意の上、譲渡契約が締結されるが、敵対敵買収においては、経営陣が買収提案に合意しないため、買収側は株式公開買付などを通じた強引な買収の実行を試みる。
テクニカル上場
上場会社が非上場会社との合併により解散する場合や、株式交換、株式移転により非上場会社の完全子会社となる場合に、その非上場会社が発行する株式について、速やかな上場を認める制度。
デットファイナンス
銀行借入や社債発行などにより、外部資金を調達する行為。
デットファイナンスの特徴は、期日までに元本と利息の返済を約束することである。
デッドロック条項
株主間契約において、各株主間で意見の相違があり、会社としての決議がなされない場合の決着方法を定める条項。
デューディリジェンス
M&Aの買手が、M&A取引を実施する際、対象会社などの実態把握を目的に行う調査のこと。DDと略されることが多い。
独占交渉権
M&Aにおける独占交渉権とは、特定の買手候補が、売手との間で、独占的にM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいう。
独占交渉権が付与されている状態では、独占交渉権の有効期間中、売手は別の買手候補とのM&Aに関する協議や条件提示の受領は禁止される。
ネームクリア
M&Aの売手と買手との間で秘密保持契約を締結した後、買手候補に対して対象会社の社名等の情報を開示すること。
のれん
買収額と被買収企業の純資産との差額を会計上のれんとして貸借対照表に計上する。
のれんを計上する根拠は、M&Aがもたらす超過収益力の源泉という点であり、その超過収益力の実現が見込まれず、純資産よりも高い価格での買収であったと判断される場合には、当該のれんは減損損失の計上対象となる。
ノンネーム
M&Aの初期段階において、秘密保持契約を締結する前の段階で、買手候補に対して対象会社の社名や情報を開示しないこと。
初期段階において提示する情報は、実社名を伏せた簡易なものに限定されることが多く、会社が特定されるような具体的な情報は記載せず、地域、事業内容、売上規模等の概要をでまとめた資料によって買手候補の関心の有無を確認する。
買収防衛策
敵対的な企業買収の濫用を防ぐために企業が取る防衛策。
買収防衛策には、事前に備える策と、事後的に対処する策がある。
代表的な買収防衛策としては、ポイズンピル(事前警告型ライツプラン)、議決権の制限、絶対多数決条項(Super majority)、期差専任取締役会(Staggered boards)などがある。
配当割引モデル
投資家が株式を保有することによって将来得られるキャッシュフローが配当金であるため、この将来の配当金の割引計算後の総額が株式価値であるとする評価手法。DDM(Dividend Discount Model)と略される。
バーチャルデータルーム
Web上で電子ファイルを共有する場所。
M&Aにおいて、デューディリジェンスを実施する際の売手から買手への情報開示の手段として、バーチャルデータルームを経由した電子ファイルの開示を行うことがある。
Virtual Data RoomをVDRと略して呼ばれる。
バリュエーション
企業価値評価のことであり、評価の対象には、事業価値、企業価値、株式価値がある。
バリュエーションの手法は複数あり、大きくインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチに区分され、実務上はそれらを単独または複数組み合わせることによって評価が行われる。
秘密保持契約
M&Aの検討開始の段階において、売手が買手に対して提供する情報を対象に、買手が秘密情報として第三者に漏洩しないことを義務付ける契約。
一般的には、情報の定義、情報を開示する相手の範囲、目的外使用の禁止、除外事項、有効期間、損害賠償に関する事項などが記載される。
CA(Confidentiality Agreement)やNDA(Non-Disclosure Agreement)と略される。
表明保証
M&A取引において譲渡契約の当事者の一方が、他方の当事者に対し、対象会社や対象事業に関して、一定時点における一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するものである。
例えば、対象企業の貸借対照表上に計上がされていない偶発債務を保全するために、買手に対して追加的な債務が存在しない旨などを保証することをいう。
一般的なM&A取引は、デューディリジェンスを行い、譲渡対象の法務、税務、財務などの問題点を洗い出した上で、これを買収価格に反映する交渉を行い、最終的な譲渡価格の決定を行ってクロージング、という流れで進められる。
しかし、デューディリジェンスで識別できる事項には限界があり、時間や費用コストの制約だけでなく、そもそも不利な資料を売主が積極的に提出しないことも起こり得るため、全ての問題点を抽出することは現実には困難である。
そこで、M&A取引の実務上の対応として、売手が買手に対して、譲渡対象の事業の状況や財務内容などについて、開示した情報が真実かつ正確であることの表明保証を行う。
ファイナンシングアウト条項
買手がM&A取引の譲渡代金を金融機関からの借入によって調達する場合に、借入の実行をクロージングの前提条件とすること。
クロージングの局面において買手が資金調達できずに株式の譲渡代金を支払えないことになれば、買手は株式譲渡契約書に違反することになるため、それを防止するために契約書に含める条項である。
ファイナンシャルアドバイザー(FA)
M&Aの買手または売手に対して、M&A実行の戦略立案から取引完了(クロージング)に至る一連のアドバイスを行う事業者。
通常は、M&A当事者となる買手または売手のどちらかと個別に業務委託契約を結び、一方のみのサポートを行う。
ファイナンシャルバイヤー
M&Aを行う主体のうち、買収を金融取引として考える事業体であり、投資ファンドなどが相当する。
ファイナンシャルバイヤーにとって、M&Aの目的は、価格が割安な企業を買収後に企業価値を向上させた上で、他社への売却利益を得ることである。
フィデュシャリーアウト条項
M&A契約の締結後に、第三者による更に好条件の対抗提案の提示が行われた結果、当初の契約に基づく取引を実行することが株主の利益に資さなくなった場合に、売手が一定の条件の下で最終契約書における譲渡義務から解放される旨の条項である。
フィデュシャリーアウト条項が規定される背景には、企業価値向上に資するような他の提案を逃してしまうような合意を行うことが、売手や対象会社の取締役の善管注意義務(Fiduciary Duty)違反に該当する可能性があるという理由があり、対象会社が上場企業となるようなM&A取引において規定されることがある。
負債コスト
企業が事業を行うために調達した資本にかかるコストのうち、債権者から外部調達した負債に対するコスト。
借入金に対する支払利息等が該当する。
負ののれん
純資産より低い価格で買収を行う場合における、取得価格と純資産額の差額。
実態よりも割安で買収を行ったことにより生じる差額であり、連結財務諸表上は負ののれん発生益として特別利益の区分で計上される。
フリーキャッシュフロー
企業が事業継続のために必要とする資金の支出を控除した後のキャッシュフローであり、投資家(株主および債権者)に配分可能なキャッシュフローを意味する。
簡便的には、「営業活動によるキャッシュフロー-投資活動によるキャッシュフロー」で算出され、企業価値評価においては、「税引後営業利益(NOPAT)+減価償却費-設備投資額-運転資本増加額」の値が用いられる。
ブレークアップフィー条項
M&Aの最終契約書において、売手と買手との間で設定される、当該M&A取引が破談となった場合の違約金に関する取り決めをいう。
最終契約締結からクロージングまでの期間において、売手または買手いずれかの契約上の義務違反等に起因してM&A取引が完了されなかった場合の違約金について、契約上設定することがある。
プロセスレター
買手候補が複数存在するM&A取引、いわゆるオークション形式の取引において、売手から買手候補者に対して提示される入札プロセスの進め方やDD・契約交渉などのスケジュール等を記載した書面。
ベータ値
市場ポートフォリオの価格変動に対する個別資産(個別証券やこれらの集合体であるポートフォリオ等)の価格変動の大きさ、すなわちマーケット全体に対する個別銘柄の感応度を表す指標。
市場ポートフォリオの価格変動と同一の変動である場合を1として、指数で表される。
ベンチャーキャピタル
ベンチャー企業への出資または融資を行う投資機関。
ベンチャー企業は、中小・零細企業が多く、ベンチャーキャピタルは、それらを経営面・財務面で支援を行うことで、キャピタルゲインの獲得を図る。
簿価純資産額法
コストアプローチに分類される企業価値評価手法のうち、対象会社の貸借対照表記載の純資産をもって株式価値と評価する手法。
ボラティリティ
株価の変動率を意味し、統計学の手法によって計算される標準偏差。株価が変動しやすい銘柄ほど高い数値で表される。
ストックオプションの価格算定をする際に使われる変数のひとつで、ボラティリティが高い銘柄(株価の変動が大きい銘柄)はオプション評価額が高く、ボラティリティが低い銘柄(株価の変動が穏やかな銘柄)はオプション評価額が低く算定される。
マーケットアプローチ
企業価値評価の手法のうち、株式市場における株価もしくは、対象会社と類似する上場会社や類似M&A取引と比較することで、相対的な価値を分析する手法。
代表的な手法として、市場株価法、類似会社比較法、類似取引比較法がある。
マルチプル法
マーケットアプローチに分類される企業価値評価手法のうち、類似する上場会社等の株価とある数値との間の倍率をもとにして、対象会社の価値を算定する方法。
主な評価手法として、類似会社比較法や類似取引比較法が用いられる。
みなし配当
法人税法の規定であり、金銭その他の資産の交付を受けた場合、金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が、発行法人の資本金等の額のうち、その法人の資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、配当等の額とみなすというもの。
具体的には、法人の株主等が、自己株式の取得や資本の払い戻しによって対価を受領した場合に、交付金銭等の額から法人の資本金等の額に相当する部分を差し引いた金額が、みなし配当とされる。
メザニンファイナンス
シニアローンと普通株式による資金調達との中間的に位置づけられる、ミドルリスク・ミドルリターンの資金調達方法。
債権型・株式型・混合型の仕組みがあり、具体的には、劣後債や劣後ローン、転換社債型新株予約権付社債、優先株式などがある。
有価証券報告書
投資家が投資を行う際に十分な判断材料に資するため、金融商品取引法に基づき企業が事業年度ごとに作成する開示書類。
記載内容は、企業の概況、事業概況、設備の状況、提出会社の状況、経理の状況、提出会社の株式事務の概要、参考情報などで、会計監査人による監査報告書が添付される。
悪質な虚偽記載がある場合は上場廃止となる場合もある。
友好的買収
買収者が売手や対象会社の経営陣の賛成を得て、M&Aを行うことをいう。
友好的買収においては、相手方経営陣の協力が得られるため、敵対的買収のように敵対的TOBなどの強硬手段によらなくても合併、会社分割、株式交換・株式移転、事業譲渡など、対象会社との契約を通じて買収を行う手法も可能になる。
優先株式
普通株式に比べ、配当金や残余財産分配を優先的に受ける取り決めがある株式。その変わりに株主総会での議決権がないといった設定がされる場合もある。
優先交渉権
M&Aにおいて、売手が譲渡先候補を検討する際、特定の買手候補が最初に交渉することができる権利。
当該売手が、優先交渉権を持つ買手候補以外から別の提案を受けた場合でも、同等の条件以上で当該優先交渉権を持つ買手候補が買取を希望した場合は、まずは優先交渉権を持つ買手候補と交渉することとなる。
有利発行
新規の株主に現在の株価より低い価格で株式を発行することをいう。直近の一定期間の株価の終値平均より1割以上を下回る場合に、有利発行に該当する可能性がある。
ラストルック条項
買手候補が複数存在するM&A取引において、他の買手候補から売手に対してより有利な提案がなされた場合に、特定の買手候補に対して、提案内容変更の機会を与える取り決めを行う条項である。
これにより、ラストルック条項による権利を持つ買手候補は、後発の買手候補にわずかな入札額の差で敗れることはなくなる。
略式組織再編
組織再編行為のうち、組織再編当事会社同士の議決権の保有状況から、株主総会を開催しなくても決議の結果が明らかであるものとして、組織再編契約について株主総会決議による承認を要することなく効力を生じさせることが認められたもの。
議決権の90%以上を有している会社を特別支配会社といい、その保有されている会社においては、株主総会決議が不要となる。特別支配会社においては、株主総会決議が必要である点は通常の組織再編と同様である。
類似会社比較法
マーケットアプローチに分類される企業価値評価手法のうち、上場類似会社の時価総額ないし企業価値と財務数値との倍率を基に、対象会社の価値を分析する手法。
EV/EBITDAマルチプル(企業価値÷(営業利益+減価償却))、EV/EBITマルチプル(企業価値÷営業利益)、PER(時価総額÷純利益)、PBR(時価総額÷純資産)等が主に使われる倍率指標。
対象会社の事業内容・規模・成長性等を基準に類似上場会社を選定し、上記の倍率を算定して、対象会社の財務数値にあてはめることにより価値評価を行う。
類似取引比較法
マーケットアプローチに分類される企業価値評価手法のうち、類似するM&A取引と財務数値との倍率を基に、対象会社の価値を分析する手法。
EV/EBITDAマルチプル(企業価値÷(営業利益+減価償却))、EV/EBITマルチプル(企業価値÷営業利益)、PER(時価総額÷純利益)、PBR(時価総額÷純資産)等が主に使われる倍率指標。
対象会社の事業内容・規模・成長性等を基準に類似する会社がターゲットとなったM&A取引を選定し、上記の倍率を算定して、対象会社の財務数値にあてはめることにより価値評価を行う。
リスクフリーレート
無リスク資産の収益率。
日本の場合、日本国債の利回りがリスクフリーレートに該当し、企業価値評価において割引率を算定する際には、日本国債の利回りが使われることが多い。
リスクプレミアム
株式のようにリスクを伴う資産の収益率から、無リスク資産の収益率(リスクフリーレート)を差し引いた値をいう。
投資家がリスクを負担することに対するリターンと位置づけられる。
レーマン方式
M&Aアドバイザリー会社や仲介事業者において、一般的に使われているM&A取引における成功報酬の計算方式であり、譲渡代金に応じて報酬料率が変動する計算方式のこと。
取引金額が5億円までの部分・・・5%
取引金額が5億円を超え10億円までの部分・・・4%
取引金額が10億円を超え50億円までの部分・・・3%
取引金額が50億円を超え100億円までの部分・・・2%
取引金額が100億円を超える部分・・・1%
レバードベータ
ベータ(β)とは、株式市場が1%変化したときに、株式のリターンが何%変化するかを表す係数であり、個別の株式銘柄の相対的なリスクを表す。
レバードベータとは、株式市場の実績データから算出したベータであり、負債での資金調達による財務リスクを含んだ指標である。
レバレッジドバイアウト(LBO)
M&Aにおける対象会社の資産やキャッシュフローを担保にして資金調達を行い、買収資金に充てること。
対象会社の信用力に基づいて資金調達を行うため、買収企業は少ない自己資金でM&Aが実行できる。
ロングリスト
一定の基準で選定した買収候補先もしくは買手候補先となる企業ついてまとめたリストのことをいう。ロングリストとは、初期的に多くの候補先を挙げたリストであり、検討の上より絞り込んだリストをショートリストという。
ADR
Alternative Dispute Resolutionの略で、裁判外紛争解決手続と訳される。裁判上の手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与してその解決を図る手続きのこと。
企業再生においては、整理回収機構や中小企業再生支援協議会など、公的機関が調整役となる手続(行政型ADR)と、弁護士や公認会計士といった民間の中立的な第三者が実施者として選任されて手続を主催するもの(民間型ADR)がある。
DCF法
企業や事業が将来生み出す収益をキャッシュフローとして予測し、リスクを反映した割引率で現在価値に換算することにより、価値を算出する手法。
割引率には、加重平均資本コスト(WACC)が用いられる。
DEレシオ
Debt Equity Ratioの略であり、負債資本倍率を意味する。企業財務の健全性(安全性)を見る指標の一つで、企業の資金源泉のうち、負債が株主資本の何倍に当たるかを示す倍率指標。
DES
デット・エクイティ・スワップの略。過剰債務の企業などで、債権者がその債権を現物出資し、債権評価額分の株式の割り当てを受ける行為のことをいう。
債権者が金銭出資を行った上で、その資金によって債権の返済を受ける取引を「疑似DES」という。
EBITDA
Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略であり、支払利息、税金、減価償却費を差し引く前の利益を指す。税制や金利標準、減価償却方法の違いを排除できるため、国際間での収益性比較に使用されることが多い。
実務上は、営業利益に減価償却等の償却費を足し戻すことによって算出され、営業利益と比較してキャッシュフローに近い指標とされる。
ESOP
Employee Stock Ownership Planの略称であり、自社株を企業の拠出(損金扱い)で買い付け、従業員へ配分する税制優遇自社株配分制度。
自社株から生じた利益を従業員に退職・年金給付として還元するために利用される。
PMI
Post Merger Integrationの略で、M&A取引後における経営統合に向けたプロセスのこと。組織、業務、システム、技術、人事制度、IT等、広い範囲がPMIの対象となる。
S&Gパートナーズ株式会社
代表取締役
税理士・公認会計士
有限責任監査法人トーマツでの勤務の後、M&AブティックファームおよびデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーでのM&Aアドバイザリー経験を経てS&Gパートナーズ株式会社および志村俊光税理士・公認会計事務所を設立。
M&Aアドバイザリー業務・財務デューディリジェンス・企業価値評価業務の経験と会計プロフェッショナルとしての知識を活かし、会計・税務の高い専門性を要するM&A取引のアドバイスを得意とする。
税理士登録番号: 144964
公認会計士登録番号: 32131