M&Aスキーム選択の主要論点は?会計士・税理士が経験に基づき解説します

M&Aの基礎

“M&A”という言葉自体は世に浸透しているものの、その形態(スキーム)にはいくつものパターンがあり、それらのうちいずれを選択するのが良いかという検討はなかなか難しいものです。
M&Aのスキームを専門家が知恵を絞って考える場面を、流行した小説やドラマの中で目にした方は多いと思いますが、現実のM&A取引においても、取引主体となる当事者、譲渡対象、用いる手法、対価等の組み合わせによって複数の選択肢があり、メリット/デメリットや現実的な実行可能性を踏まえて、当事者間で決定していきます。そのようにして、目的に合ったスキームを選択することは非常に重要なことです。

本稿では、M&Aにおけるスキーム選択にあたっての主要論点について解説します。

M&Aスキームの全体観

M&Aの目的に見合う成果を最大限に実現するには、案件の初期段階から買手・売手相互の置かれている状況を考慮しつつ、どのようなスキームをもって実行するかの検討が極めて重要となります。

M&Aのスキームには、対象を会社(株式)または事業(資産)とするか、手法を何にするか、譲渡先として既存会社または新設会社とするか、対価を現金または株式とするか、といったケースによって、いくつかのパターンが存在します(下図参照)。

一般的には、譲渡の対象(会社単位か事業単位か)が最も重要な決定要素であり、それぞれ株式譲渡や事業譲渡が選択されることが多いですが、その他にも熟慮すべき事項が存在します


スキーム選択の主要な論点

M&Aのスキームにはいくつか形態がありますが、決定にあたっては、譲渡対象の他に、取引後の経営体制、会計・税務への影響、必要となる法的手続・規制対応、発生費用等が比較対象となります。
それぞれが相互に密接に関わるものであるため、総合的な検討が必要となります。

ここではスキームを選択するにあたっての主要な論点を検討ポイントとともに例示します。

項目 論点 ポイント
全体像
  • 買手・売手が望むM&Aの対象は会社全体か事業か
  • 買収主体
  • 対象が会社全体である場合、株式譲渡が最もシンプル
  • 対象会社が一部の事業である場合は事業譲渡、吸収分割、新設分割と株式譲渡の組み合わせ等が選択肢
  • リスクの遮断やタックスメリットの享受、規制対応のために買収主体としてSPC(特別目的会社)を利用するケースもある
  • 案件のタイムライン、必要な承認プロセス、会計・税務影響、各種法的手続を勘案し、総合的な判断が必要
資本構成
  • 対象会社の現状の資本構成
  • M&A後に売手が対象会社株式を継続保有するか
  • 買手/売手が望む対象会社への影響力・資本構成
  • M&A時に必要となる決議(取締役会決議 or 株主総会普通決議 or 特別決議)はなにか
  • 買手としては2/3以上の議決権を取得することが望ましい(単独での特別決議が可能)
  • 売手が売却後も対象会社の株主として残留する場合は、1/3超を保有することが望ましい(特別決議の拒否権を確保)
  • 株主間契約や種類株式の仕組みを導入することで、持株比率と経営権を分離することも可能
会計・税務影響
  • 取得する資産・負債に含み益はあるか
  • 対象会社の繰越欠損金を引き継げるか
  • 買手・売手がもともと同グループ内企業でない場合は、会計上、資産・負債の時価評価が原則必要
  • 税務上、適格組織再編に該当すれば対象会社が計上する法人税法上の繰越欠損金を引き継げる場合がある
  • その他の税金(消費税、不動産取得税、登録免許税)は発生するか
譲渡対価・資金調達
  • 買収の対価として現金が必要か
  • 必要な場合、十分な手元資金または資金調達先があるか
  • 譲渡対価として現金、株式、またはそれらの組み合わせのいずれにするか
  • 資金調達が必要な場合は買手の信用力のみで行うか、対象会社の将来キャッシュ・フローを活かせるか
  • 自己株式や新株発行を伴う組織再編行為(吸収合併、株式交換等)の活用
投資回収
  • 投資回収・投資評価の考え方
  • 買手は投資回収の手段として、配当、キャッシュフローの増加、シナジー発言による損益の改善、数年後の再譲渡等の投資回収方法についての整理が重要
  • 回収期間、内部利益率(IRR)、投資利益率等、投資評価の考え方について整理することが望ましい
  • 配当等、資金の吸い上げには法的な規制が存在する
法律・規制
  • 権利・義務、契約関係の承継
  • 開示・公告の要否
  • 各種規制(取引所、金商法、会社法)
  • 独占禁止法
  • スキームによって、権利・義務、契約関係を個別に承継するものと包括的に承継するものがある
  • スキームによっては公告が義務付けられるものがある
  • 買手の規模、対象会社の規模、スキームによって適時開示や独占禁止法対応が必要なものがある


最適なスキームの選択

上記論点は例示となりますが、これらの事項を当事者間で総合的に考えていくと目的に合う最適なスキームが見えてきます。

中には個別の事情があり至急取引を完了させる必要がある等の場合もあると思いますが、M&Aは事業拡大や経営承継の手段であり取引の完了自体がゴールではないため、取引後の状況も深く考えながら行っていく必要があります。そうでなければ、別のスキームを選択していた場合に得られたであろう利益や回避することが可能であった費用が生じる可能性があります

重要な取引であるからこそ拙速に進めることはせず、初期段階から当事者間でよく協議し合うことが成功につながります。

まとめ

本稿では、M&Aのスキームを決定する際に論点となり得る項目について検討のポイントと併せて記述しました。
(各スキームの概要、メリット/デメリットの比較については別記事にて解説します。)

自社の目的に見合ったスキームを選ぶためには多くのことを案件の初期段階から検討する必要があり、会計・税務・法務等の高い専門知識を要求されます

そのため、それら事項の検討に精通した専門家を起用することは近道であり、結果として当該専門家に対する報酬以上の経済的価値を正しいスキームを選択することによって得られる可能性も大いに考えられます。

当社は、会計・税務のプロフェッショナルとしての知識と経験を活用し、M&Aに関するアドバイスを提供しています。

M&Aのスキームをまさに検討されているという方はもちろん、M&Aの概要や事例等についてのお問い合わせも、まずはお気軽にご相談ください。

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