吸収合併を行うには?手続・費用を解説!

M&Aの進め方

自社と他の企業を統合するM&A手法の一つとして、吸収合併があります。吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させる取引をいいます(会社法第2条第27号)。
この記事では、吸収合併をご検討中の方のお役に立つよう、存続会社・消滅会社で求められる手続および費用について、取引の留意点とともに解説します。

一般的な吸収合併の流れ

吸収合併を行うには、合併契約の締結や譲渡代金の支払を行えば完了ということではなく、会社法に定められる手続を順に踏んでいく必要があります。
手続の主な流れは以下となり、吸収合併にあたって株主・債権者が不利益を被ることがないよう一定の保護手続が求められます。
そのため、実行にあたっては、最短で1.5~2ヵ月程度の期間を見て適切にスケジュールを行うことが重要です。

手続 To Do
事前準備・協議
  • 合併契約に関する主要条件の決定(合併スキーム、移管対象資産・負債の範囲、合併対価、合併比率、価格 等)
  • 合併後の事業運営方針の協議(資産の移管方法、拠点、役員構成、組織構造、従業員の処遇 等)
  • 経営統合の要対応事項の洗い出し(人事制度の統合、各種規程の統合、システムの統合、許認可の継続可否 等)
合併契約書の締結
  • 合併契約書のドラフト・契約交渉
  • 契約締結に関する取締役会の決議(取締役会非設置会社においては取締役過半数の承認)
  • 合併契約の締結
事前開示書類の備置
  • 合併契約の内容などの法定開示事項を記載した事前開示書類の作成(存続会社・消滅会社双方がそれぞれ作成)
  • 前開示書類の存続会社・消滅会社双方の本店に備置
    (※ 書類備置の開始日は、株主総会開催日の2週間前、株主または債権者への公告・通知・催告のいずれか早い日)
反対株主の株式買取請求手続
  • 合併に反対の意思を表明した株主による株式買取請求期間を確保(買取請求期間は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日まで)
  • 買取請求を行う場合は公正な買取価格の決定
債権者に対する通知
(債権者保護手続)
  • 官報による公告の準備・公告の申込
    (直近事業年度の決算公告を行っていない場合は併せて官報への掲載が必要)
  • 合併の効力発生日の1ヵ月以上前からの公告による通知
  • 債権者に対する個別催告(個別催告に代えて電子公告等によることも可能)
株主総会決議
  • 合併の効力発生日前日までに存続会社・消滅会社それぞれの株主総会において合併に関する承認決議を実施(原則特別決議)
  • 株主総会の議事録作成
効力発生
  • 合併契約において定めた、合併に際しての前提条件充足の確認
  • 消滅会社の資産・負債・権利義務の存続会社への継承
  • 合併対価の移転
登記申請
  • 存続会社: 変更登記の準備・申請
  • 消滅会社: 解散登記の準備・申請
事後開示書類の備置
  • 存続会社による事後開示書類の作成
  • 事後開示書類の効力発生日後6ヵ月間の備


株主保護手続

吸収合併にあたっては、まず当事会社間で合併契約を締結し、その後両社の株主総会決議を得る必要があります。
当該総会決議に先立ち、合併契約の内容や合併を行うことの合理性を説明した書類を株主に対して開示することが求められています。
事前開示書類は、存続会社・消滅会社の両社がそれぞれの本店で、以下のうちいずれか早い日から備え置きます。

・吸収合併を承認する株主総会開催日の2週間前の日
(ただし、株主総会をみなし決議(会社法第319条第1項)により行う場合は株主への提案日)
・官報への合併公告の掲載日
・株主または債権者への通知日

吸収合併に反対する株主がいる場合は、当該反対株主は、当時会社に対してその保有する株式の買取請求を行うことができます。

※ 上記に関わらず一定の場合には、存続会社または消滅会社において株主総会を笑楽できる制度も存在しますが、本稿での説明は割愛します。

債権者保護手続

吸収合併に際し、債権者(仕入先、外注先、銀行、賃貸人等)が当該合併に関する異議申立てを行うことができる期間を設ける必要があります。
債権者が異議申立てを行った場合は、債務者である会社は債務を弁済または相当の担保を提供することになります。
この手続を債権者保護手続と呼びますが、吸収合併を行うための債権者への通知は、官報による公告に加えて、債権者に対する個別催告両方を行うことが求められています。

ここで、吸収合併に関する公告に加えて、直近事業年度の決算公告を行っていない場合には合併公告と決算公告を同時に掲載する必要があります。

個別催告の代替手段として、日刊新聞紙または電子公告による公告が認められますが、それらの手続を行う場合であっても官報公告は省略できないことにご留意ください。

電子公告というのは、単純に会社のホームページに吸収合併の内容を掲載すれば足りるものではなく、法務省所定の手続による必要があります。それには、官報に代わる公告手段を定款に定めることが必要であったり、掲載までの相応の期間や費用が発生しますので、通知が必要な債権者の数によっては、個別催告の方が簡便である場合があります。

なお、個別催告は実務上は普通郵便による封書やメールでのPDF形式文書の送付でも問題ありません。

吸収合併に関する登記手続

吸収合併の効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を行います。その際、存続会社と消滅会社の管轄法務局が異なる場合であっても、存続会社を管轄する法務局に2つの登記をセットで提出します。

<存続会社の変更登記必要書類>
登記申請書
吸収合併契約書
吸収合併契約の承認に関する株主総会議事録(存続会社および消滅会社)
株主リスト(存続会社および消滅会社)
債権者保護手続関係書面(存続会社および消滅会社)
資本金の計上証明書
消滅会社の登記事項証明書(存続会社と管轄法務局が異なる場合)
委任状(第三者に登記申請を委任する場合)
登録免許税

<消滅会社の解散登記必要書類>
登記申請書
登録免許税

吸収合併に必要な費用

吸収合併の手続には、契約締結、株主・債権者保護手続、登記申請等のためにいくつか必要な費用があります。
(※ 以下は主な費用の例示であり、実際はその他にも費用負担が必要となる可能性があります。)

■ 吸収合併契約書: 4万円 / 契約書原本1通

吸収合併契約書には、原本1通につき4万円の収入印紙を貼付する必要があります。
存続会社の変更登記申請のためには必ず1通の原本が必要となりますが、例えば当事会社のうち存続会社1社のみで原本を保管し、その他の会社では写しのみで足りるという場合には、原本1通のみに収入印紙を貼付することで済みます。
各当事者が原本を保管したいというご希望がなければ、そのようにすることで収入印紙代の節約が可能です。

■ 官報公告

官報への公告掲載が必要であり、掲載する公告の大きさによって費用は異なります。
合併公告のみであれば5万円程度で収まるケースもありますが、直近事業年度で合併公告を行っていない場合に2社同時に合併公告+決算公告を掲載する場合は、約22万円(官報公告6枠)を要します。

■ 存続会社の変更登記に要する登録免許税

吸収合併に際して増加する資本金額によって存続会社の変更登記に要する登録免許税の金額が決まります。

原則: 吸収合併によって増加する資本金額×0.15%
増加する資本金が消滅会社の資本金額を超える部分×0.7%
(上記で計算した金額が3万円を下回る場合は3万円)

■ 消滅会社の解散登記に要する登録免許税

消滅会社の解散登記には一律3万円の登録免許税が必要です。

■ その他費用

債権者に対する個別催告のために要する通信費、各種証明書の発行手数料等の諸費用が必要となる場合があります。

吸収合併の留意点

■ 適法に手続を行うためのスケジュールの設定

株主保護手続や債権者保護手続を適正に行わなかった結果、吸収合併の差止請求が行われる可能税もゼロではありません。吸収合併における全体の手続や流れを熟知している専門家が関与することにより、スピーディかつ適法な吸収合併の手続を行うことができます。その結果として、目標としているスケジュールに合わせることが可能となり、資金繰りや取引先との関係維持等、事業運営の観点でメリットがあります。

■ 合併比率を決定する際の当事者の価値評価

合併比率は、基本的には合理的な決定基準があり、当事者間の合意があれば契約上はある程度自由に決定することができます。ただし、株主・債権者等の関係者への説明責任というものも重要であり、当事者間のみの一方的な決め方ではそれらの関係者が納得しないおそれがあります。両当事者間での合理的な合併比率の算定や関係各社への説明責任を果たすためにも、前もって第三者である専門家に価値算定を依頼することも有用です。

■ 税制適格要件を満たすことによる税務面のメリット

消滅会社に法人税法上の繰越欠損金が残っている場合は、一定要件を満たせばその繰越欠損金を存続会社にて継続的に使用できる可能性があります。一方で、その要件を満たすか否かは、税務上の複雑な検討が必要になり、判断を誤ることで間違った税務処理となり、結果として合併後において追徴課税がされてしまうリスクがあります。

まとめ

吸収合併は複数の企業が一つの事業体として統合するM&A手法であり、多くの企業が成長戦略として選択してきたものです。必要となる手続やスケジュールはある程度一般論が存在するものの、案件毎に異なります。

手続に不安がある方はもちろん、関連する論点やリスクにもれなく対応し、するためにも、専門家を起用することのメリットは大きいと考えられます。

S&Gパートナーズでは、M&A・合併の豊富な経験をもとに、依頼者様による更なる事業発展のためのご検討をサポートさせていただきます。
まずはお気軽にご相談ください。


LINE無料相談受付中!

S&Gパートナーズ株式会社はLINE公式アカウントを開設しました。
以下のQRコードを読み取っていただくか「友だち追加」ボタンを押していただくことで、お気軽に無料でご相談いただけます!

友だち追加

この記事を書いたのは

関連記事一覧